複素解析のユニークな副読本
本書は一変数複素解析の個性的な「副読本」であり、複素解析性の本質を整理し、更に進んだ理論の展望を得る場合に、格好の「案内書」の役割を果たしてくれる。「正則性と複素解析性は同値である」という驚くべき事実に、コーシーの積分定理が本質的な役割を果たしている事は、衆目の一致する所であろう。本書では、この積分定理の拡張が紹介され、「領域の単連結性と複素積分の消滅性とが同値である」という複素解析の典型的な命題(定理3.6)が、他の有用な命題の同値性と併せて証明されており素晴らしいと思う。慧眼の読者は、この命題が等角写像論の基本定理である「リーマンの写像定理」を証明するための伏線になっている事を見抜かれるであろう。 本書の更に魅力ある特徴は、「閉リーマン面の解析的理論」のコンパクトな概観を与えてくれること、ならびに複素解析を用いて解明される様々な特殊関数の面白さを教えてくれることにある。特に、種数1のリーマン面(=複素トーラス)上で、この両者が美しく融合する例として「楕円関数」の理論が解説されており、その構成は「絶妙」の一言に尽きる。また、最終章「関数論演習」で選ばれている5つの問題は、全て立派な理論の一部と言って良く、著者の選択眼の高さ・確かさはさすがである。 複素解析のように幅広く奥行きがある理論には、教科書以外にも種々の「副読本」や「案内書」があって然るべきだと思う。本書はまさしくこの範疇に属する一冊であり、難波著『複素関数 三幕劇』やEdwards著『Riemann’s Zeta Function』などと共に、面白く楽しめる読み物として強くお薦めできる。
東京大学出版会
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